友達@世田谷シアタートラム(岡田利規演出)

11/22のマチネーで、「友達」を観た。 舞台には、建材用の金属パイプを曲げてつないだだけの、簡素な部屋らしきもの。そこには壁も、床の間仕切りすらなく、二つのドアがなければ、それは部屋とすら判らない。 冒頭、まだ薄暗い舞台の上を、闖入者たちが現れ…

声の召喚

オバマの演説を聴いていると、つくづくアメリカの政治というのは弁論術の歴史であったのだなと感じる。 そして、オバマの巧いところは、そうした弁論の歴史を汲み取り、先人のことばを自分の言葉に重ねているところだ。 彼が話すと、歴代の大統領や黒人指導…

106才を折り返し、月に触れる

オバマの勝利演説はすごかった。 とりわけ後半、106才の婦人の指先が電子投票スクリーンに触れる瞬間を起点に、過去106年と未来106年を折り返すくだりは、壮大なる名調子である。そこで語られている歴史は、多分に紋切り型であり、いかにもアメリカ的まとめ…

月光異聞

夕暮れどき、鍋尻山から上がった月が大きい。 ふと、山に近づくほどに月が大きくなるような気がする。山のすぐそばに、人の背丈の倍ほどの月があって、そこに行けば、本当の月の大きさが測れるのではないか。 などと思うのは、先週見た維新派の舞台の記憶が…

ボヴェ太郎『Texture Regained -記憶の肌理-』@伊丹アイホール

10/11 伊丹へ。乗り換えがうまく行けば、彦根から伊丹は1時間40分ほど。 公演前、ボヴェさん、企画の小倉さんと少しお話してから本番。 文字を読む 踊りに読む 何もないリノリウムの平台を見下ろすように、数十脚の客席が設えられている。客入れの音楽さ…

呼吸機械、群読、小さい人間

6:30に会場に着くと、もうあたりは暗がりで、舞台に入ると、水平線の向こうにわずかに船の灯りが見えるのだが、客席が明るく照らされているので、向こうに広がっているのが湖なのか、それとも舞台が果てしなく広がっているのかがわからない。 その、水面とも…

ラジオ 沼:384 より/接触と帯気 ポニョの歌のこと

まだ、ポニョ祭りなんですけどね。 ポニョといえば、あの、頭にこびりつくような歌なんですけれども、ぼくはあれを街のあちこちで聴きながら、途中で歌われている擬音語がどうも聞き取れないんです。 わくわくちゅゆ、って言ってるのかな。こころも踊るよっ…

Perfume ”GAME” もしくは貧血と観測(マカロニ篇)

「マカロニ」は温度の歌だ。 「見上げた空は高くて だんだん手が冷たいの」と、早くも貧血少女は体温の危機にさらされている。危機にさらされているにもかかわらず、「暖めて」というのではなく、「キミの温度はどれくらい?」と聞いて手をつなぐのである。…

Perfume ”GAME” もしくは貧血と観測(ポリリズム篇)

むかしよく貧血で倒れたころ、「ああ、これは気を失うな」とわかる瞬間が、意外に心地よかったのを覚えている。お笑い芸人が階段でつまずきながら用意周到に体の向きを調節するように、薄れ行く意識の中でかろうじて、前後にばったり倒れて致命傷にいたるの…

4’32”に起こったこと

予習と初演 ずいぶん前のことだが、コンサートに行くという知人が「ああ、行く前に歌詞ちゃんと覚えて予習して行かないと」と言うので、驚いたことがある。 もちろん、何度も繰り返し聞いた曲を聴きにコンサートに行くこともあるけど、あらかじめ知らない曲…

サイン波の切/断、音源と身体

サイン波の切/断 以前、大友良英さんと、単行本用の対談をしていたときに、Sachiko Mのサイン波のことが話題になって、ぼくはなんとなく、「小さいのにいきなり突き抜けてくる感じ」というような言い方をした。 とりわけONJOのような大人数の編成で明らかに…

指先から群島へ。北里義之「サウンド・アナトミア」

年末に北里義之氏の「サウンド・アナトミア」を読み、以来、この本について折りに触れて考えることがあった。 本の副題には「高柳昌行の探求と音響の起源」とあるけれども、じつを言えば、ぼく自身は、高柳昌行の音楽の熱心な受け手であったとは言い難い。だ…

名前の消失・名前の召喚 「転校生」覚え書き

会場を間違えて、富士山の見える山の上の舞台芸術センターに行ってしまった。暮れなずむ紅葉を見ながら蛇行するタクシーに揺られ、駅のそばにある静岡芸術劇場にたどりついたころには「転校生」の開演時間を過ぎていた。 ロビーに入ると、にぎやかな女子高生…

HOSE 1stアルバム

HOSEの1stアルバムが送られてくる。 メンバーは知り合いだらけだし、これまで何度も演奏は聴いている。が、ここはあえてゆっくりパッケージを開け、居住まいを正して聴く。 いや、とんでもないアルバムだ、これは。 一曲めから、やらねばならぬことだけをや…

墨の匂いのする教室

1/20 一日、大学センター入試の監督。 試験が始まるたびに監督マニュアルに従って「机に置いてよいものは、H、F、HBの黒鉛筆、消しゴム、鉛筆削り、時計・・・」と繰り返し、「○○しない場合は不正と見なします」と恫喝じみた注意を唱えていると、気持ちが乾…

チェルフィッチュ、指し示しが咲き誇る

京都芸術センターにチェルフィッチュの「体と関係のない時間」を観に行く。脚本も映像も舞台も見たことのないこの公演をなぜ選んだかというと、昨年のユリイカ「この小劇場を見よ!」特集で、演劇のことばとからだについて、岡田氏がとてもおもしろい論考を…

クールな系統樹思考をホットに語る方法

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)作者: 三中信宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2006/07/19メディア: 新書購入: 18人 クリック: 262回この商品を含むブログ (340件) を見る 三中さん (id:leeswijzer) の「系統樹思考の世界」(講談社現代新書)を読む。こ…

ライブ「かえるさんと愉快な仲間たち」

虚を突く歌と絶妙のアンサンブルで、この世にまたとない気配を呼び込むBRAZIL(「Coffee」は名盤!)キーボードとトランペットがメロディをクリスプに受け渡すPOPO、この一年でもっとも驚かされた二つのバンドと共演できるとはなんたる幸せかな。おっさんの…

本は読むたびに造り直される 松田哲夫「本に恋して」(新潮社)

装丁家、造本家の話かと思って読み始めたのだが、そうではない。この本で扱われている範囲はいわゆる「造本家」の扱う範囲を越えて、紙抄(すき)や、束見本づくり、函作り、インキ作りと、本というモノを扱う職人さんの話だ。 そして、その職人さんの世界の…

悪魔と博覧会

以前、この日記で紹介した「The Devil in the White City」の邦訳「悪魔と博覧会」が出た。 ラーソンの、冷徹な叙述で切迫する調子が日本語で味わえます。 http://d.hatena.ne.jp/kaerusan/20050416

「絵はがきの時代」

絵はがきの時代作者: 細馬宏通出版社/メーカー: 青土社発売日: 2006/05/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 30回この商品を含むブログ (40件) を見るというわけで、ようやく出ます。 フォローアップのページ、「絵はがきの時代」補遺: http://www.12kai…

「音の海」@神戸ジーベックホール

前にも書いたけど、ぼくは、ミュージシャンによく「大人」を感じることがある。あちこち旅をして、初めて会った人にこちらのやりたいことを伝えて、演じる場所、演じる機材をセッティングし、何人もの(自分を含めた)我の強い面々と一つのバンドやユニット…

山下残ダンス公演「船乗りたち」@京都芸術センター

野村誠くんのblogを読んで、これは見ておこうと思い、京都芸術センターの山下残ダンス公演「船乗りたち」に行った。そして、これは、昨年来、重力について考え続けたことを揺らす、とても貴重な経験だった。 舞台は丸太でできた筏。この筏は中央に支点を持ち…

モーダルな事象

ブックファーストで立ち読みをしてたら最初の1,2ページで、するすると引き込まれる文体だった奥泉光「モーダルな事象」。そのまま六曜社に移動し、さらにJRの中で読み続ける。まさしく巻措く能わざる面白さ(このフレーズ前も使ったっけな)。 冗談という…

音の城(神戸 旧乾邸)

御影に移動。旧乾邸で「音の城」。 いろいろ思うところはあったが、まず、いい試みだと思った。千野さんや大友さんのような、単に即興ができる人というよりは、聞くことや見ることにとても自覚的な人を人選してるところがとてもおもしろい。もちろん、通常の…

他人を通して感情化する情動

朝、明らかに二日酔いの頭を支えつつ、服部邸を辞し、彦根へ。うみかぜシンポジウム「「食」と保育」午後の部に滑り込む。 外山紀子さんの食事場面観察の話は、「今日いっしょに食べようね」という園児のことばをきっかけに、「いっしょに」が意味するものを…

積木の先の感覚と寝転がること

学童保育観察。途中でビデオのバッテリが切れ、いい機会なので、ビデオ撮りをあきらめて参与観察に切り替える。ビデオのファインダを気にせずに子供と接すると、ファインダ越しとは違ったことに気づく。あれこれノートを取る。 たとえば、積み木を箱に片付け…

巨像日記始めました

数年ぶりにゲームをやり始めたので。 「ワンダと巨像」日記。たぶん断続的になると思いますが。http://www.12kai.com/wanda_diary.html

内藤礼展 於大山崎山荘美術館

大山崎山荘美術館へ。内藤礼の「返礼」を見る。 地下美術館の中央に白い部屋が据えられている。中には細い糸が二本、下がっている。垂直ではなく、角度のついたその線は、ただ垂れ下がっているのではなく、何かにつながれているのだろう。あるいは二本が下で…

構えを事後的に構成する

ひさしぶりに近くの学童保育に行く。ふらりと入って、子供とあれこれつきあううちに、机の上ではまとまらない考えがいろいろ浮かぶ。今日はカメラやノートは持たずに手ぶらで、ボランティアの人たちにまじってあれこれやりとりをする。 みんなでサツマイモで…