オキナワからイラクに赴く青年

 サンフランシスコで乗り換え。隣に座った青年に大阪に行くのか尋ねたら、兵役でオキナワからイラクに行くのだという。なぜか兵士というのは、チャーター機や船で部隊ごと移動するというイメージがあったのだが、こうやって民間機でめいめいオキナワまで移動するのだな。考えてみれば当然なのだが、いままでそんなことを考えたことがなかった。

 さっそく、いかにブッシュのイラク政策が間違っているかをこんこんと説く・・・のではなく、軍隊生活の話をあれこれ聞く。
 イラクでは、まだ電力会社のようなインフラはなく、ディーゼル式のバッテリーを数戸単位で設置していくのだという。その設置から配線までを行なうのが彼の仕事。イラク人との共同作業で少しアラビア語を覚えた。テント生活にはテーブルは支給されない。だから自分たちで作る。ベッドを椅子代わりにするか、適当な高さのものを腰掛け代わりに使う。イラクでの任務は一日14時間労働。休日はない。食事は主にカフェテリア。カフェテリアの従業員にはインド系やフィリピン系が多い。
 クエートは8日ほど居たが、あそこはイラクとはまるで違う。みんな働いていない。働いているのはインド系、フィリピン系だけに見える。

 21歳の彼はウィンターグリーン味の噛みタバコを噛む。軍隊で覚えたのだという。片方の頬をタバコで少しふくらませながら「まあ噛みタバコなんてみっともないんだけどね」と言う。ペプシの缶をあっというまに飲みきると、プルトップの蓋を大きくこじ開けて、そこにぷっぷっとタバコの滓を吐いていく。
 故郷のオクラホマには彼女がいるけれども、これからも続くかどうかは分からない。イラクでは、カード式の電話をかけることができる。35ドルで200分。実家にかけるときはコレクトコールにする。ベースで働いているイラク人は男ばかりなので、イラクの女性と話したことはない。オキナワの女性とは話す機会がないわけじゃないけど、あまり話さないようにしている。彼女に悪いから。できれば彼女と結婚したいと思っている。こちらは少なくともあきらめない自信があるけれど、彼女のほうはわからない。兵役のあいだにbreak upすることもまあ、よくあることだからね。

 ぼくは会話の中で兵役を指して最初「your duty」と言っていたのだが、彼はやんわりと、「my dedication」と言い換えた。

 オキナワではベースを出るときには、複数の人間で行動することになっている。というのもマリーンはときどきバカをやるから。オキナワでは毎日7to5。体力トレーニングがある日は5:30に起床。ただし、週末は休める。ビールは一人6缶まで貯め込むことができる。1日で消費してもよしちびちび飲んでもよし。ただし6缶以上を一度に貯め込むことはできない。