カセットの底にラベルの切れ端

 ビデオやオーディオカセットの底には、ツメがついていて、これを折ると録音ボタンが下りなくなり、貴重な録音が上書きされるのを防止できる。
 ところが手元に空きテープが見つからないと、いったん永久保存版と決めたテープを「やっぱりもういいや」と、再上書きすることがある。しかし、すでにツメは折られている。で、どうするかというと、折られたツメの上からセロテープを貼って、ツメの代わりにする。
 しかし上書きをしてまで空きテープを欲しているときというのはたいてい、いますぐエアチェックをしなければ!というギリギリの事態なのである。そしてそんなときに必要なテープを枯らしているような人間はたいてい、整理整頓が苦手な人間なのである。整理整頓が苦手な人間に、セロテープが簡単に見つかるはずがないのである。
 ああもう間に合わない、と、ふと手元を見ると、カセットテープのラベルを書き込むシールがあるではないか。これだ!これを貼っちまえ! 適当な大きさにちぎってテープの底に貼り付け、あわてて録音機にぶちこみ録音ボタンを押す。かくして、あやうく貴重な録音や映像はテープに刻み込まれることになる・・・
 こんなことをしているのは自分だけかと思ったら、何人かの知人の家で、やはり底にちぎったラベルの貼ってあるテープをみかけたことがある。本来は文字を書いて内容を識別するためのラベルを、修繕用に使ってしまうといういっけん特殊な転用を、複数の人が体験している。追い込まれてもうダメ、というときに、なぜかラベルがふと目にとまり、同じ機能を発見してしまうらしいのである。