風景化する鶴瓶

 朝、三回生のゼミで「きらきらアフロ2003」を、鶴瓶の応答ぶりに注意しながら見ていく。これは予想を越えて勉強になった。鶴瓶の計算された応答のコントロールもさることながら、松嶋尚美のあざやかな暴走ぶり。

 たとえば、キャバクラで悪酔いした女が、客の頭をひっつかんで「ヅラだろ!」と叫ぶところ。相手に向かってすごむのを模すところでは、松嶋尚美は観客を向いてセリフを言う。しかし、いざヅラをひっつかむときは、鶴瓶の頭からヅラをひっぺがそうとする真似をしてから、あらためて観客に向き直ってセリフを言う。
 普通なら、ヅラをひっぺがすところもすべて観客に向かってジェスチャーでやってしまうところだ。しかし、それだと、鶴瓶はただ松嶋の視界に入らない、おいてけぼりをくらった間抜けな相方に過ぎなくなるだろう。しかし、鶴瓶からヅラをひっぺがすことで、鶴瓶は視界に入らないのではなく、視界に入っているのに人間として扱われていない存在に見えるのである。
 ここで、バーチャルなヅラを取られる鶴瓶は「イタイイタイ」などと相手に合わせるわけではない。ただぬーっと立っている。そのことで、鶴瓶は完全にモノと化す。相手が人間ならば、先輩後輩の礼も生じるし、ヅラとりはいかにも失礼な行為に映る。しかし鶴瓶がただぬーっと立ち、人間としての気配を一瞬消すことで、松嶋は思う存分ヅラをとることができる。「鶴瓶の風景化」とも言うべき奇妙な存在感。