子音スローモーション

 
 次のセットはカヒミ・カリィONJO。昨日と違って、減衰するビブラフォンではなく持続するサイン波が入り、ホーンセクションを増やした。大友さんはそのホーンの対面に座るという配置。浜田真理子が母音の人ならカヒミ・カリィは子音の人。声帯の震えによってボリュームを出すのではなく、口内で巻き起こるノイズで突き抜ける。フランス語の子音、とりわけ、j,r,shといった、持続可能な子音を多用することで、多人数のONJOのと相対している。kのような、本来短い音ですら、舌が上口蓋の近くにとどまることで引き延ばされる。子音のスローモーション。
 母音の響きはフィルタがかかったように遠ざかるいっぽうで、子音はクリアに客席まで届いてくる。近い、というよりは、遠くから手が伸びてくる、という感じなのだ。空間を唄えば空間の向こうから手が伸びてくる。時間を唄えば過去(それとも未来)から手が伸びてくる。
 
 最後のセットはレイ・ハラカミ+高谷史郎。じつはレイ・ハラカミの音は初めて。演奏前にいちいち「いってきまーす」と声をかけるのが楽しい。その彼のいってしまった世界から届けられる音は、(ぼくはあまりシンセに詳しくないのであいまいな表現しかできないが)ぴこぴこというよりは、ぼっぼっというふくらみのある粒だちで構成されていて、好きな音空間だった。これは仕事中にも聞きたいなあ。高谷史郎の三連映像は、三つの画面に同じ映像をディレイで入れたり、横並びの同時映像を入れたりと、少ない動きでうまく時間感覚をずらしていくものでおもしろかった。