夢を揺さぶる顔

 「きらきらアフロ」における鶴瓶トークで、とくに注目すべきは人物の交替。落語では上下をつけることによって人物の区別をつけていくことが多いが、鶴瓶はこれ以外に、正面を向いたまま瞬時に人物を変える技をいくつか持っていて、これがすごいのだ。

 「東京駅のホームでやくざ風の男にすごまれた話」というのがある。やくざ風の男の肩にスタッフが当たってしまい、一同が男にすごまれるのだが、男が相手の中に鶴瓶を見つけた途端「なんや、あんたかいな〜、あんたやったらええねや」と急に柔和な態度になるという話だ。
 この、やくざの顔が豹変する場面で、語り手である鶴瓶の顔には完全にやくざ風男が憑依し、その口は完全に逆「への字」になる。この表情だけで客席から笑いが起こる。
 さて、そこからだ。このやくざ風男の逆への字顔から、あっけにとられた鶴瓶の顔に戻るのだが、鶴瓶はただ二つの表情を瞬時に入れ替えるのではない。
 「ぶるるるるるる」と顔を振るのである。
 男から鶴瓶になるとき、鶴瓶はものすごい速さで首を振る。
 現実には、われわれは驚いたからといって「ぶるるるるる」と顔を振ったりしない。この「ぶるるるる」は日常描写ではなく、表情から表情への変化を表わす、いわばメタ表情なのである。あえて似ているものを挙げるとすれば、マジシャンや形態模写の人がある物からを別の物へと変化させるときにやる、物を覆う手つきがそれにあたるだろうか。
 この「ぶるるるるる」によって、ぼくは、やくざ男の憑依から覚めた鶴瓶を見る。夢がぶるるるるると揺さぶられる。揺さぶられたあとにぴたりと表情が現われる。あたかも、スロットがいきなり回り出して、チェリーが三つ並んだ風情だ。そして、ぼくは、なんだかよい初夢を見たあとのようなおめでたさを感じるのである。