夢の箱、夢の光源

 The Road not Taken '05会場のひとつ、ギャラリーそわかの二階と地下にやられた。

 二階の倉本麻弓作品は、手に乗るほどの34個の箱の中に彼女の夢を記述したもの。それが、いわゆる美しい夢とは違って、むしろつげ義春のマンガにも通じるような夢見の世界で、とくに驚きなのは、彼女は夢で、ある種の土地をさまよっているらしく、夜ごとの夢の場面ひとつひとつが、その土地の上にマッピングされているのだ。確かに、夢によく現われる土地というのはあるし、おきまりのパターンというのもあるが、ここまで各場面がマッピングされているのは珍しい。
 ひとつひとつの箱はひとつの夢を表わしている。箱の蓋は開けられて、裏返しに並べられている。つまり、箱の中味と箱の天井とが接していることになる。天井には、空色に雲が描かれているものもあれば、暗色に塗りつぶされているものもある。どんな色で塗られているにせよ、蓋を閉じてしまえばそこは真っ暗になるはずだが、不思議と、空色なら空色が保たれたまま閉じられるところを想像してしまう。ならば、この夢の光源はどこにあるのだろう。
 34個の箱は、1番から番号順に並んでおり、横にはおよそ100文字程度に書かれている。夢の記述だから、その視点は固定されているようでもあり、同時に何カ所にもあるようでもあり、時間に沿って動くようでもある。箱を見下ろすことで、全体を見通すこともできるし、小さなヒトガタに仮託して、箱の中をあちこち動き回ることもできる。窓や戸口なのだろうか、壁に小さな切り込みの入った箱もあり、外側からそこに光が差し込んでいたりする。箱の高さにしゃがんで、その切り込みから中を覗き込むこともできる。
 いくつかの夢は互いに時空が連続しており、さきほど入ったういろう屋がまた現われたり、風呂屋でうろうろしているあいだに次の夢で湯船を見つけたりする。そうやってヒトガタ世界を巡っていくと、なんだかひとまとまりの旅でもしたような気分になるから不思議だ。
 作者は小さい頃から、このように小さな箱に夢を表わし続けてきたらしいのだが、ひとつひとつの箱の喚起力がすばらしく、どこまでも飽きさせない。これは恐るべき物語力だと思う。