石塚公昭「乱歩 夜の夢こそまこと」(パロル舎)

乱歩―夜の夢こそまこと
 石塚氏がこつこつと作り、撮り続けてきた乱歩絵物語。人形の制作からプリントまで、さまざまなテクニックを組み合わせながら進む、襞に織り込まれてゆくがごときその虚実のあわいは唯一無二。
 たとえば二十面相の、いい意味で下卑た粘土顔は、怪人二十面相ファンならずとも思わず捕らわれそうな強烈な造形だ。この顔で、穴蔵の中で口笛など吹きながら着替えられたら、たまらんな。
 「押絵と旅する男」では、絵はがき、押絵、人形と、次元の異なるメディアたちが次元を越えて隣り合うというまさしく原作を地でいく表現。
 この本には、あちこちに絵はがきのイメージが組み込まれているのだが(東栄館の絵はがき!)、それがなんとも奥行きを感じさせる時系列で並べられており、ある種の絵はがき偽史に見えてくるところも楽しい。
 そしてなんといっても主役は、めがねにはめこまれたなまりガラスの向こうで視線をあいまいに曇らせながら、この世を透かしてあの世を見る乱歩の姿。カバー絵の乱歩と気球の醸し出す不思議なパースペクティヴに惹かれた読者は、収められた写真のひとつに写し込まれた棚の上に、ちょこんとその乱歩と気球が置かれているのを見て、さらなる驚きに打たれることになる。
 氏が綴っている日々の記は、制作日記として読むこともできる。
 http://www.kimiaki.net/