ガイ・マディン「世界で一番悲しい音楽」

 二本目はガイ・マディンの「世界で一番悲しい音楽」。時は 1930年代、自分の母親との悲しい演奏の思い出と向き合うことのできない「生ける屍」チェスターは、天井から出入りする市電に乗り、恋人ナルシッサとともに生まれの故郷のウィニペグで開かれている、「世界で一番悲しい音楽コンテスト」に出演する。トーナメント形式、国別で争われるこの風変わりなコンテストは、その対抗の仕方も変わっており、ろくに一曲弾く間もなく耳障りなブザー(この音がなんともいえん)によって演奏権が相手方に移り、しかも後半になると、双方が競うように合奏して悲しみを高める。審査員を務めるヘレンは、じつはチェスターのかつての恋人で、(チェスターの父親が酔った勢いで足を切断してしまったという)不幸な事故によって両足を失ってしまった過去を持つ。
 金にあかせて敗退国の演奏者を次々取り込み、アメリカチームの演奏をバージョンアップしていくチェスター、ろくでなしの父親に愛想をつかし、いまはセルビアを故郷と定めるチェスターの兄ロデック、そして愛と償いの気持ちからヘレンにビール入りのクリスタル義足(と書いてもまるでリアリティがないがそうなんだから仕方がない)を作る父親、そして、はすっぱで不思議な歌声をもつナルシッサは、ロデックの奏でるメロディーにとつぜん深い悲しみを見出すのであった・・・。ってこれ、ほんとにカズオ・イシグロ脚本なんでしょうか。そしてイザベラ・ロッセリーニはちゃんと美しく、この無茶苦茶な映画が、不思議と悲しいんですよ、旦那! 全編生ける屍の夢。

 そしてまたものすごい月明かりの午後11時、モンタナ通り、自転車を飛ばして帰る。