クリーブランド管弦楽団、指揮ピエール・ブーレーズ

 「安定した」なんて言い方でブーレーズを語るなんて奇妙なことだ。
 60年代末に彼がクリーブランド管弦楽団と録音したドビュッシーの「海」はぼくが最初に買ったレコードで、その北斎の絵がプリントされたCBSの廉価盤を、文字通りすり切れるほど、最後の楽章の弦の音がしゃりしゃりになるほど聞き倒した。
 70年代、彼はラヴェルの録音を立て続けに出し、ぼくはそれを次々に聞いたが、どのレコードからも、それまで聞いたことのない音がした。「マ・メール・ロア」にいたっては、ほとんどこの世の音楽とは思えなかった。高校一年のとき、その彼が来日するのを知って、なけなしの小遣いをはたいて、神戸までわざわざそのコンサートを聴きに行った。さっさっと、音の出し入れをまるで調理の指示を出すように合図する彼の独特の手振り(ブーレーズは指揮棒を使わない)を見て、ああ、ボリュームに合わせて大振りに振るだけが指揮ではないんだなと思った。1975年、ちょうどいまから30年前のことだ。そのときブーレーズは50歳だった。