・・・とその衰退

 ジャズ喫茶やクラシック喫茶の衰退は、学生運動的気風の衰退とか、CDの登場によるレコード資産の運用の困難化とか、いろいろな説明が付くと思うけど、少なくともその結果現われたのは、オーディオを介した「原音」志向の衰退だと思う。だって、CDが登場したからって、聞き手の住環境がそれほどアップグレードしたわけじゃないもん。むしろ相変わらずご近所は騒音にうるさいし、リスニング・ルームを備えるほどの財力がある人は相変わらず限られているし、市販のコンポはスーパーベースばっかり強調するし、つまるところ、みんなヘッドホンの音質向上という地味な方法を使うことによって、オーディオスピーカーによる原音構成を介してではなく、ヘッドホンスピーカーの振動音を直接聞くという奇妙な方法を介して、音楽を「再生」しているわけですよ。  そして、この「原音構成よりもヘッドホンの振動音のほうをとる」という選択には、「スピーカーの振動音じたいを楽しむ」というプラスの契機もあって、乱暴に言えば、それは現在のグリッチに対する感覚へとつながっているわけだが、ともあれ、もはや、録音の空気を再生しなくても、わたしたちはなぜか音楽を楽しめてしまうという事態を迎えていることは確かなのだ。そして、それはわたしたちの頭の中の「メソッド」によって可能になっている、ということも。