バークリーメソッドを逆にたどる

 十代の頃、中学生新聞か何かの裏に載っていた洋楽の譜面で、コードというものに初めて出会った。おたまじゃくしのほうは音楽の授業で習ったことがあったので、すらすらとは読めないまでも、なんとなく意味はわかったが、AmとかG7とかいう記号のほうは、最初さっぱりわからなかった。それで、たまたまうちにあったカーペンターズのレコードとその記号だらけの譜面とを比べながら、家にあったピアノの鍵盤でそれらしい音を拾うというのを何日もやっているうちに、その記号の意味が次第にわかってきた。まずAとかGとかいうのは、どうやら音の記号らしく、それはドレミファソラシドに対応している。Aがドかと思ったので、はじめはひどくとまどったが、Aをラと考えて、そこからどんどん上がっていけばよいとわかると、少し先が見えてきた。

 mの意味もそのうちわかってきた。まず、大文字で書いてある音から、白鍵と黒鍵を合わせて三つ行ったところを押さえる。さらにそこから四つ行ったところを押さえる。これでmになる。ちなみにmがない場合は、大文字で書いてある音から、四つ行ったところ、そこからさらに三つ行ったところを押さえる。このことに気づいたときは、その法則のあまりの簡潔さに感動して、ほとんど毎日サルのように、AとかAmとか弾いていたと思う。

 驚くべきことに、この法則は、大文字がAでもBでもCでも通用した。それどころかC#とかD#とか、黒鍵からはじまる場合もうまくいった(そういう風に作ってあるのだから当たり前だ)。
 そのうち、7とかmaj7とか9とか、そこにさらにおまけについている+とか-とかいう記号も、結局大文字からどれくらい離れているかを示しているのだとわかったので、これまたサルのようにいろんなコードを弾いて遊んだ。何ヶ月か後には、コード譜を見ると、たどたどしくではあるが、そのコードを押さえることができるようになっていた。
 それで次は、いろんなコードをとにかくすばやく押さえることができるようになるまで、あれこれ練習した。すると、驚くべきことに、知らない曲までそれなりに簡単な伴奏をつけることができるようになってしまうのだ(これはまさに、菊池氏が「デサフィナード」p98でやってることだ)。じっさい、この頃、いわゆる1001の簡易版のようなポップス名曲集を買ってきて、そこに載ってる曲でコードのおもしろそうな曲を次々に弾いて遊んだ覚えがある。